チャン・マリーの香港熱病日誌〜2000年黄金週間

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            5.1

ビーチハウス


くねくねした山道を20分ほど走ったら、ビーチに面した彼女の住まいに到着した。彼女のパートナー、キース氏が笑顔で迎えてくれる。少年の瞳をした、シルバー・ヘアーの紳士だ。昔はビーチハウスだったというお宅からは、ホントすぐに浜辺に下りられる。庭が砂浜として広がっているようだ。外のテーブルで、さっきミドリが買ってくれたヤシの実に穴を開けて、中のココナッツ・ジュースを出して飲む。青くて甘い南国の味。終わったらキースがどでかいナタのような包丁でヤシの実を真っ二つに割ってくれ(小生もトライしてみたが……)、内側の白い果肉をスプーンで削り取って食べる。もうお腹いっぱい。
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コンクリートを破壊して 
作られた、ミドリの菜園→



ミドリとキースは、或るとてつもないプロジェクトを企画していて、彼女はそのスポンサー探しで日本に帰国して奔走したり、がんばっているのである。もともとジャーナリスト出身の2人が企画中のプロジェクトとは、香港から南アフリカまでランド・ローバーで旅する道中、旅先の農村の状況をネットで発信し、持続可能な生活の知恵をみんなで探るというものだ。そのため彼らは、独学的に肥やし作りの研究をしたり、実験的家庭菜園で野菜を育てたりという毎日を送っている。ランタオ島には野良牛や野良水牛が住んでいて、ときどきビーチに来ては排泄していく。そのフンは肥やしにとてもよろしいとか。中国式伝統的農法は、数年前、隣の村で香港最後の農村がなくなる前にキースが学んできた。身体の弱った人が風邪菌にやられるように、栄養のない(肥やしのない)土に育つ植物は弱くて害虫にやられる。それで農薬が一層まき散らされることになる。だから、肥やし作りは農業にとって最も重要なことだという。

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←ミドリ宅の庭から望むビーチ


泳ぐ人のいないビーチに向かい静かにたたずんでいると、自分がもうずいぶん遠くまで来てしまったんだなと思わずにはいられない。メイルでやり取りすると、ミドリは案外まめな人ですぐに返事をくれるから、物理的な距離を感じたりはしないけど、実際に自分がランタオ島の彼女の生活にほんの一瞬だけど珍入してみて、東京での仕事や暮らしが遥か彼方に感じられた。人々が人生を駆け抜けているような香港で、静かだが確かに世界とつながっている場所を知った。

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